花鳥風月部シュロが邪魔な場合の排除方法

花鳥風月部シュロが邪魔な場合の排除方法


目次


百鬼夜行連合学園の自治区へと足を踏み入れたホシノは、奇妙な少女と出会う。

 

「お初にお目にかかります。手前は花鳥風月部のシュロと申す怪談家にてございます」

 

「初めましてだねぇ、シュロちゃん。おじさんに何か用?」

 

「はい、此度は商いのご相談でこうして馳せ参じた次第でして。手前様、秘蔵の【お砂糖】お持ちですよね?」

 

「耳が早いねぇ、確かに持ってきているよ」

 

「でしたら是非、お譲りいただけると手前も喜び飛び跳ねる勢いでございます。いえもちろん、ちんけな破落戸のように強引に奪おうなんて思っていませんとも。耳をそろえてお支払いさせていただきます」

 

「買ってくれるっていうなら嬉しいね。おじさんはまだ始めたばかりだからさ、砂糖の良さを分かってくれるのは苦労しているんだよねぇ。これで幸せになれるのに」

 

「では商談成立、ということで」

 

「はいこれ、とりあえず手持ちで売れる分はこれだけかな。あとはまた後日でもいい?」

 

「しかと受け取りました」

 

「今後とも御贔屓に、って返すのが良いのかな? これからも仲良くしようね……ところで後学のためなんだけどさ、どうやって広めるのか教えてもらってもいい?」

 

「はい? ええ、ええ。問われたのならばお答えしましょう。手前ども怪談家にとって『百物語』を成立させ『風流』をなすことが目的。その種となるのは噂であり、どこかで誰かが聞いたとされるもの。誰が言ったかわからぬのに、知りたいという欲求が抑えられぬもの。砂が水を吸うように静かに浸透し、やがて飢えて乾くのは【砂糖】も『百物語』も同じ。本質は似通っているので、とても良い噂の種となって、後は自然と広まっていくでしょうねぇ」

 

「なるほどねぇ。やっぱり宣伝は大事か」

 

「はい。ひとたび口にすれば、後はおむすびころりんすっとんとん、止まることなく奈落へ落ちるが道理。なんて相性が良いのか、と思わず笑ってしまうほどに。あのナグサちゃんも、黄昏へと招くのはたやすくなることでしょう。心が砕けて砂糖のことしか考えられず、欲しい欲しいと願う姿はまさに餓鬼の群れ。天上の快楽とともに無限の地獄へと落ちていく様は、これぞ『風流』といったところですねぇ」

 

「ふぅん……」

 

「? おや手前様。銃など取り出して、急にどうされたんです? そんなおもちゃ、手前には通じませんよぉ?」

 

「当たったのに手応えがない、どうやらそうみたいだねぇ」

 

「あははははははは、手前の言葉に、何か気分でも害されましたかぁ? 周りに不幸を撒き散らして悦に入る様は、手前どもと変わらぬでしょぉ? あははははは――」

 

「う~ん、なら【こう】かな」

 

「はははは――は、なんで? なぜ手前に触れる?」

 

「さっき砂糖の受け渡ししたじゃん。なら実体はある、けど銃は当たらない。何かカラクリがあるんだろうね? だから手に【砂糖】つけてみたんだよ」

 

「馬鹿な、そんなことでどうにかできるものか! 手前が危惧するのは白蓮だけ、そんな子供だましが通じるはずが……」

 

「でもさっき【砂糖】と百物語の本質は似通ってるって言ってたよね? なら多少は干渉できてもおかしくないよね。目の前でペラペラ話してくれたからさ、こっちもいくつか対策考えれたよ、ありがとね」

 

「て、手前になにするつもりですかぁ? 言っておきますけど、いくらいたぶられたところで手前の主張を変える気なんてさらさらないですよぉ」

 

「ん? 言ったでしょ? 『仲良く』したいんだよ、これでね」


「そ、それは……!?」

 

「【砂糖】だよ。甘くて甘くて、とても美味しいものだ。ねえシュロちゃん、おじさんたちは不幸をばら撒いているんじゃなくて、幸せのおすそ分けをしているんだよ。だから君も幸せになろう? 商売の基本は三方良しだもん。売り手のおじさんと、買い手のシュロちゃんがまず幸せにならないと、みんなに幸せは届けられないよ」

 

「う、売る物はもうないって」

 

「売り物の【砂糖】は、ね? これはおじさんが食べてる『最高純度』の物だよ。大丈夫、サービスしておくから。ユメ先輩も【やっちゃえ☆】って言ってるし」

 

「こ、この狂人が! や、やめっ、んむ――っ!?」

 

「ほらほら、暴れないの。いい子だから」

 

「あ、あああ……あー? ……あはははははは!」

 

「おいしい? うん、口に合ったようで良かったよ」

 

「あえいうあいあ、あああぅあええあ!」

 

「ありゃ、カスミちゃんみたいに呂律回らなくなっちゃった。そういえば怪談家とか言ってたっけ? できれば詳しく聞いてみたい気もしたけど……この様子だと難しいかな?」

 

Report Page